わが祖国といえば、私にとっては日本以外にはありません。日本を離れてはや38年が過ぎようとしていますが、私の国は日本だけです。
しかし今回の展覧会のタイトルとした「わが祖国」は私の生まれた故国ではなくて、私が作品を制作する為の基盤となる観念上の国です。私の主観的な世界観ともいえます。さらにこれは自分がどういう世界の住人であるかという自己認識です。
自分をどんな風に認識するかは、作品を創る時の必要条件です。でなければ無重力の世界を漂うようなものです。自分の足元が定まらなければ作品を創れないどころか、「思考」すら方向の無い空想に留まるのみです。
従って「わが祖国」とは「自己認識」と等価です。ところで自己認識と一口に言いますが、これは哲学の基本問題の一つで、考えれば考えるほど不明瞭になってくる極めてやっかいな問題です。紙面がないので哲学問答は避けますが、自己認識についてはある心理学者がこう説明しました。
自分が何であるかとはその人の人生がそれを教えてくれる、と。
そう…。真の自己認識とは懸命に生きて、血と汗と涙の土壌から芽生えるのです。
林良文プロフィール
1948 福岡県に生まれる 1972 東京、中央大学哲学科中退 1974 単身で渡仏。以来パリ在住 1976 独学で鉛筆デッサンを始める
パリや東京、チューリッヒなどで個展多数。
展覧会特別イベント ■ 自己認識(自我)についてと、フロイトの精神分析に対するかる~~い批判 ■
2013年1月26日(土)17時開場・スタート(入場料1,500円・1ドリンク付き)
林良文スペシャルトーク:ゲスト中野昌宏(青山学院大学総合文化政策学部)
中野昌宏プロフィール
1968年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科修了,博士(人間・環境学)。
大分大学経済学部講師・准教授,パリ第8大学客員研究員を経て,現在青山学院大学総合文化政策学部教授。
社会思想史を起点に哲学,精神分析(特にフロイト・ラカン派),認知心理学なども研究。
著書『貨幣と精神――生成する構造の謎』(ナカニシヤ出版)ほか。